アルハンブラ宮殿でガイドをしてもらったルシアさんに、洞窟フラメンコのおすすめの場所を尋ねました。フラメンコはアンダルシア地方が発祥とのこと。せっかくなので、マドリードで見たフラメンコとの比較も兼ねて、本場グラナダのフラメンコを見に行くことにしました。
グラナダの洞窟フラメンコとは
グラナダのフラメンコは「洞窟フラメンコ」と呼ばれ、サクロモンテ地区の洞窟住居を使って行われます。サクロモンテ地区には何軒もフラメンコが見られる店があり、店の前を通ると演奏や足音が聞こえてきます。

今回予約したのは「Cueva La Rocío(クエバ・ラ・ロシオ)」という店です。ルシアさんのおすすめで、1951年創業の歴史ある洞窟フラメンコの店だそうです。
店舗情報:https://cuevalarocio.es/en/
「Drink + Show(ドリンク付きショー)」を予約しました。料金は一人28ユーロ。ディナー付きのショーもあります。
洞窟フラメンコの雰囲気

洞窟の中は想像以上に奥行きがあり、両側に椅子が並んでいます。席は早い者順で、私たちは開演30分前に到着して中ほどの席を確保できました。
まずドリンクが配られます。洞窟の外にはテラス席もあり、食事を楽しんでいる人たちもいました。夏の夜、外で食事をしてから洞窟でフラメンコを見るというのも良さそうです。
ショーの内容

洞窟内は狭いため、ダンサーの動きは前後が中心です。横幅がないぶん、観客との距離が非常に近く、ダンサーの息遣いや足を踏み鳴らす振動まで伝わってきます。
洞窟内に音が反響するため、音響効果が独特です。ギターの音色、歌い手の声、そして足音が洞窟全体に響き渡り、まるで音に包まれているような感覚になります。
マドリードのフラメンコとの違い
マドリードで見たフラメンコと比較すると、技術的な洗練度ではマドリードの方が高いと感じました。しかし、洞窟フラメンコには独特の雰囲気があります。
言うなれば、地域の伝統芸能を間近で見るような体験でしょうか。日本で例えるなら、劇場で見る歌舞伎と地元の神楽の違いに近いかもしれません。どちらが良い悪いではなく、それぞれに異なる魅力があります。
昔はこんな風にフラメンコが踊られていたのだろうと想像すると、歴史を肌で感じられる貴重な体験でした。
フラメンコダンサーについて
マリオ・マヤ:フラメンコを芸術に高めた伝説のダンサー

グラナダ市内には、マリオ・マヤ(Mario Maya)というフラメンコダンサーの銅像があります。地元の人によると、グラナダのヒーローだそうです。
マリオ・マヤ(1937-2008)は、それまで地元の祭りや酒場で即興的に踊られていたフラメンコを、劇場や舞台でも演じられる芸術作品として確立させた革命的な人物です。コルドバ生まれですが、グラナダのサクロモンテで育ち、フラメンコの革新と発展に大きく貢献しました。
日本で例えるなら、富山の地域祭りでしかなかった踊りを「おわら風の盆」として全国的な舞台芸術に高めたような存在でしょうか。伝統を守りながらも革新を恐れず、フラメンコに新しい表現方法を取り入れた先駆者でした。
もう一人の伝説:アントニア・シングラ(ラ・シングラ)
帰国後、NHKで放送されていたドキュメンタリー「ラ・シングラ 幻のフラメンコダンサー」で知ったのですが、アントニア・シングラ(芸名:ラ・シングラ、1948年生まれ)という伝説的なフラメンコダンサーがいます。
バルセロナのソモロストロ地区(当時はロマのコミュニティがあったスラム街)出身で、生後数日で髄膜炎により聴力を失いました。しかし、母親の手拍子を見てリズムを吸収し、感情にあふれた見事なダンスを踊るようになりました。
12歳からバルセロナの居酒屋で踊り始め、1960年代には国際的に有名になり、パコ・デ・ルシアやカマロン・デ・ラ・イスラといった巨匠たちと共演しました。1963年の映画「バルセロナ物語」にも出演し、この作品はアカデミー国際長編映画賞にノミネートされています。
耳が聞こえないフラメンコダンサーという奇跡的な存在で、残されている映像を見ると、素人目にもその表現力の豊かさが伝わってきます。
夜はグラナダの老舗バルへ
フラメンコを楽しんだ後は、サクロモンテ地区からバスで市内中心部へ戻りました。バス停近くで見つけたバルに入ったところ、これが大正解でした。

店名は「Los Diamantes(ロス・ディアマンテス)」。店内が混み合っていたので人気店だろうと思って入りましたが、予想通りの名店でした。1942年創業の老舗で、海鮮料理が自慢のバルです。
海鮮のフライ盛り合わせと、いくつかタパスを注文しました。どれも新鮮で美味しく、特にエビのフライは絶品でした。飲み物を含めて家族三人で35ユーロという驚きの安さ。
スペインのバルは本当に便利で、サクッと晩ご飯を食べたい時に最適です。カウンターで立ち食いする地元の人たちと、観光客が混ざり合う雰囲気も楽しめます。
グラナダでフラメンコを見るなら
今回はマドリードでもフラメンコを見ておいたことで、より伝統的な形に近い洞窟フラメンコとの比較ができて、とても興味深い体験になりました。
サクロモンテ地区には他にも何軒か洞窟フラメンコが見られる店があります:
- Cueva La Rocío(今回訪問):1951年創業、ルシアさんおすすめ
- Zambra María La Canastera:有名な老舗
- Cueva Los Amayas:アマヤ家による伝統的なサンブラ
どの店も事前予約がおすすめです。特に夏のハイシーズンは混み合うので、早めの予約が確実です。
次回はセグウェイで回るグラナダ観光について紹介します